【百人一首・日英独訳】第9首 小野小町「花の色は」|意味・背景と独自の解釈

百人一首絵札009番の画像 百人一首

百人一首の第9首は、小野小町による名高い一首「花の色は」。この歌は、美しさ、時間、そして人生そのものの儚さを、驚くほど静かで、鋭い言葉で描き出しています。

この記事では、歌の情景と背景をたどりながら、日本語・英語・ドイツ語の多言語訳とともに、千年を超えて響くこの歌の意味を味わっていきます。

和歌の基本情報と多言語訳

YUKI
YUKI

まずは、原文と多言語訳から、小野小町が見つめていた世界を見てみましょう。

和歌(原文)

百人一首絵札009番の画像「花の色は」
「花の色は」

花の色は
移りにけりな 徒に
我が身世にふる
ながめせしまに

— 小野小町

英語訳

The colors of the flowers
have faded away in vain,
while I lingered on,
lost in thought,
watching the long rains of this world.

ドイツ語訳

Die Farben der Blumen
sind vergeblich verblasst,
während ich dahinlebte,
in Gedanken versunken,
und den langen Regen dieser Welt betrachtete.

現代語訳と歌が描く情景

花の色は、
いつのまにか色あせてしまった。
(そして、私の美しい時期も過ぎ去ってしまった)
私がただ、物思いに沈み、
長雨を眺めながら、
この世を生きているうちに。

「花の色は」はどんな情景を描いているのか

この歌で語られている「花」は、桜の花であると同時に、女性の若く美しい時期を表しています。花の色が変わっていくように、自分自身もまた人生の時間の中で変化してきた。

物思いに心を向けているあいだに、ふと気づくと、女性として最も美しい時期は過ぎていた。その気づきを、小野小町は嘆きでも誇張でもなく、淡々と、しかし確かな実感としてこの三十一文字に込めています。

作者と歌が詠まれた背景を深掘り

YUKI
YUKI

続いて、この歌を詠んだ小野小町という人物と、歌が生まれた背景を見ていきます。

作者について:小野小町という歌人

小野小町は、平安前期を代表する女流歌人です。六歌仙・三十六歌仙の一人として名を連ね、和歌史の中でも特別な存在として扱われてきました。後世では「絶世の美女」として語られることが多い小町ですが、実際の彼女の姿を伝える史料は多くありません。

現存する小町の和歌の多くは恋を主題としており、相手への思慕や心の揺れを、強い言葉と印象的な表現で詠む歌人として知られています。

歌が詠まれた背景:「花」と「ながめ」に込められた意味

花は咲き、そして気づかぬうちに色を失っていく。この歌の要となるのが、「花」と「ながめ」という言葉です。「花」は、自然の花であると同時に、女性の美しさや若さの象徴。「ながめ」は、長雨を意味しながら、物思いに沈む心の状態をも表す言葉です。

つまりこの歌は、物思いに心を煩わせながら人生の時間を生きているうちに、女性としての美の盛りが静かに過ぎていったことに気づいた——その実感を、花の移ろいに重ねて表現した一首なのです。

しかし、別の説では、「ぼんやりと日々を過ごしている内に、お花見の季節は終わってしまった」という歌だという物もあるようです。日本人がいかに桜の季節を心待ちにしているかを考えると、この説も案外正しいのかも知れません。

千年の時を超えて:管理人独自の解釈

YUKI
YUKI

最後に、この歌を現代を生きる我々の視点から考えてみましょう。

エッセイ:気づいたら、もう戻れない場所にいる

若いころは「いつか終わる」という感覚を、ほとんど持たずに生きています。毎日は、ただ続いていくものだと思っている。だから、忙しくて悩んで、考え事をして、目の前のことに追われているうちに、何かが終わっていたとしても、すぐには気づけない。

しかしある日ふと、昔の写真を見たり、久しぶりに鏡に映った自分を眺めたりして、「あ、もう戻れないんだ」と思う瞬間が訪れます。

この歌を読むと、私は「若さを失う悲しみ」よりも、気づくまでに時間がかかったことそのものを思います。何かに夢中になって、何かを考え続けて、自分のことを後回しにしてきた時間。それが無駄だったとは思わないけれど、その間に、確かに季節は進んでいた。

花は散る。
人は年を取る。

それは自分だけでなく、万人に等しく訪れることです。千年も前に生きた小町もそれを知っていて、若い女性たちへの教訓としてこの歌を詠んだのではないだろうか、とふと思ったりもします。

「花の色は」へ応える一首(自作短歌)

ふみ交わし
永遠に愛すと
言うけれど
君よ知らずや
我が頭の白髪

YUKI

遠距離恋愛で頻繁に会えない彼氏は「愛しているよ」とメッセージを寄越すけれど、そうやって徒に時を重ねていく内に、私の頭には白髪が目立つようになってしまった事をあなたは知らないのでしょう、という、切ない女性の気持ちを詠んだ歌です。

「花の色は」は季節の歌ですが、恋歌の多い小町ならこの気持ちが分かるのではないかと思い、あえて恋歌を返歌としました。

YUKI
YUKI

「花の色は」の切ない美しさを感じていただけましたでしょうか?また次回、新たな和歌の世界を一緒に旅しましょう。

その他の『季節の歌』も、こちらのページからご覧いただけます。

※絵札画像出典:Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

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