【百人一首・日英独訳】第3首 柿本人麻呂「あしびきの」|意味・背景と独自の解釈

百人一首絵札003番の画像 百人一首

百人一首第3首、柿本人麻呂の「あしびきの」。
この歌は、隔てられた恋を詠んだ、古典恋歌の原点ともいえる一首です。千年以上前に詠まれたにもかかわらず、「会いたくても会えない夜」の感情は、今も変わらず私たちの胸に迫ってきます。

この記事では、和歌の背景や表現技法を丁寧にたどりながら、【英語とドイツ語】の多言語訳で、その切なさを味わっていきます。

和歌の基本情報と多言語訳

YUKI
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まずは、原文と多言語訳から、この歌が描く情景を見てみましょう。

和歌(原文)

百人一首絵札003番の画像「あしびきの」
「あしびきの」

あしびきの
山鳥の尾の
しだり尾の
ながながし夜を
ひとりかも寝む


— 柿本人麻呂

英語訳

Like the mountain pheasant,
whose long trailing tail
hangs down the mountainside—
must I spend this endlessly long night
sleeping alone?

ドイツ語訳

Wie der Bergfasan
mit seinem langen, herabhängenden Schweif—
so endlos erscheint mir diese Nacht,
in der ich allein
schlafen muss.

現代語訳と歌が描く情景

山鳥の尾が長く垂れ下がるような、
長い長い夜を、
私は一人で寂しく寝るのだろうか。

「あしびきの」はどんな情景を描いているのか

山に棲む山鳥は、長く垂れ下がる尾を引きずるようにして歩く鳥です。その「長く垂れた尾」に重ねて、作者は「夜の長さ」を詠んでいます。

恋しい人と会えない夜。ただ横になっていても、夜はなかなか明けず、時間だけがゆっくりと流れていく。「今ごろ、あの人はどうしているのだろう」そんな想いが胸を満たし、眠ろうとしても眠れない――

この歌は、ひとり寝る恋人の、静かな夜の感情を切り取った一首です。

作者と歌が詠まれた背景を深掘り

YUKI
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続いて、この歌の作者・柿本人麻呂と、歌が生まれた背景を見ていきます。

作者について:歌に生きた宮廷歌人・柿本人麻呂

柿本人麻呂は、飛鳥時代を代表する歌人であり、後世には「歌聖(かせい)」とも称されました。

宮廷に仕えながら、天皇や皇族のための儀礼的な歌だけでなく、人の心の奥にある感情――とりわけ恋や別れを、非常に繊細な言葉で詠み続けた人物です。

人麻呂の恋歌には、感情を激しくぶつける表現はほとんどありません。その代わり、自然の景物に心を重ね、「言葉にしきれない想い」を、そっと浮かび上がらせます。この第3首も、その代表例と言えるでしょう。

歌が詠まれた背景:会えない夜を詠むということ

古代において、恋人同士が自由に会えるとは限りませんでした。身分、立場、距離、時代の規範――さまざまな事情が、二人を隔てていました。

この歌で詠まれているのは、「別れの場面」でも「再会の喜び」でもありません。

会えない夜、そのもの。

誰にも見せない、誰にも語らない、ただひとりで過ごす長い夜の時間。山鳥の長い尾という、静かな自然の比喩を借りることで、人麻呂はこの“何も起こらない夜”に、確かな感情の重みを与えています。

千年の時を超えて:管理人独自の解釈

YUKI
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では、この歌が現代の私たちにどう響くのかを考えてみましょう。

エッセイ:ひとり寝る夜が、いちばん長い

この歌を読むたびに、私は「夜の長さ」というものが、単なる時間ではないことを思い出します。忙しくしている昼間は、会えないことを忘れていられる。けれど、灯りを落とし、横になった瞬間、心は否応なく、たった一人の人へ向かってしまう。

「あの人が隣にいれば、この夜は、きっと短いのに。」

人麻呂の歌は、そんな思考の流れを、一切説明せず、ただ「ながながし夜を ひとりかも寝む」と言い切ります。その潔さが、かえって胸に残るのです。

この歌は、愛し合いながらも会えない人を想っているのかも知れないし、別れてしまって会えない人を歌っているのかも知れません。もしかしたら、今夜だけ会えない人を恋い慕っているのかも知れません。それは受け手の解釈に委ねられているのでしょう。

「あしびきの」へ応える一首(自作短歌)

灯を消して
名を呼ぶ声は
胸にのみ
届かぬ距離の
夜を抱き寝る


— YUKI

声に出せない想いを抱えたまま、静かな夜と向き合う――愛しい人と離れて眠る時、抱きしめられるのは夜の寂しさだけ。そんな思いを込めて、この返歌を詠みました。

YUKI
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この第三番が描く「ひとりの夜」は、誰にでも起こりうる出来事です。だからこそ、私たちの心に、そっと入り込んでくるのだと思います。また次の和歌で、千年の言葉の旅をご一緒できれば幸いです。

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※絵札画像出典:Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

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